医師はアルバイトで生計を立ててゆくべき?メリット・デメリットと得られる価値

もくじ

医師としてのアルバイトとそこで得られる価値

これまでの医者人生において、非常勤医師として様々な場所でアルバイトを行ってきました。アルバイトにより生計を立てる必要があったため、収入を保つという観点からは本経験は欠かせませんでしたが、自分次第で、自身の専門分野以外の診療経験や開業・経営など医療面以外について学ぶ場にもなります。

非常勤医師としてのアルバイト

非常勤医師としての勤務形態には、決まった曜日に勤務する「定期非常勤」と、単発で働く「スポット」の2種類があります。

現在、無数の人材紹介会社がありますが、私自身の医者人生における経験では、医局派遣といった形以外においては、「定期非常勤」は主に知人の紹介やm3を通じて、「スポット」は、MRTやm3を主軸に知り合いの紹介、メディカルコンシェルジュを使用、といった形で勤務を調整していました。

紹介会社経由の働き方とその流れ

紹介会社については、登録した後、確認できるサイト上の、もしくは紹介されてくる仕事にネット上で応募→勤務確定された際には、当日直接勤務先へ向かうという流れです。

アルバイトのみで生計を立てるデメリット

アルバイトは、効率的に収入を得ることができますが、休日や学会により勤務がなかった際には収入そのものが0になってしまうことや、非常勤医師に求められることは限られているため、スキルの向上は自分次第になります。

医師としてアルバイトで生計をたてていくこと

医師のアルバイト報酬は、一般のアルバイトの概念とは異なります。

このため、ネット上では、「週5日で日中のみ毎日働けば年収○○万円!」「常勤で働くより非常勤の方が当直もなく効率的に稼げる!」というような記事を見かけます。

確かに常勤医として組織に属し、当直を強いられる生活よりも、非常勤医として組織に属さずアルバイトをする方が収入はあがります。また、仮に組織に属していても、アルバイトによって生計を保たれる先生も多いと思います。

アルバイトにより生計をたてていくことのメリット

アルバイトにより生計をたてていくことのメリットは

・ある程度の収入までは自分で調整できる。

・子育て、介護などの制約があっても自分のペースで仕事を決められ収入が確保できる。

アルバイトにより生計をたてていくことのデメリット

一方、デメリットは、

・日々、生計を立てるために仕事を探し続ける必要がでてくる。

・組織に属していない場合、スキルや知識を保つためには能動的活動が必要になる (組織では受動的でも経験や知識が与えられる機会があるが、属さない場合には自分に厳しく努力しない限り、これらはupdateされない。)

などがあるかもしれません。

アルバイトのみで生活する医師も多いのは実情

アルバイトのみで生活されている先生も多くおられます。

しかし実際には、多くの先生は組織に属し勤務します。アルバイトのみの生活よりも収入は低く、当直などの過重労働を強いられるにもかかわらず、なぜフリーにならないのでしょうか?

医師が仕事によって得られるもの

アルバイトを考えるにあたり、「仕事によって得られるもの」は何かを考えました。

そして、それは「収入(お金)」と「やりがい」であることに気付きました。

収入とやりがいで仕事の満足感を得る

図1

これら2つのベクトルの点と点を結んだ部分の面積、これが「仕事での満足感」なのではないでしょうか (図1)。我々は必然的に、この「満足感」の面積を広げようと努力します。「収入」が少なくても、臨床や研究に「医師としての仕事のやりがい」を見出し、さらに深く追求されている人は多いです。

やりがいとは

この「やりがい」は、「人からの感謝(臨床)」や「結果に対する評価(研究)」、など「お金」と異なる指標であることが多く、「やりがいがあると感じている」場合には、「満足」の面積が大きくなります。

また、「やりがい」は、「お金」という指標と異なれば異なるほど、ベクトル間の角度が大きくなり、面積が広くなりやすくなります (「満足感」が増加します)。

お金を稼ぐことをやりがいとした場合

一方、「お金をかせぐことがやりがい」となった場合にはベクトル間の角度が小さくなり、面積を広げる、すなわち「満足感」をあげるのに苦労します。

「収入」が多くても、「満足感」が得られないために、さらに収入を増やそうと努力しますが、そのような思考であると、さらにベクトル間の角度が小さくなるため、面積が広がらなくなるのです。

経営者としての医師の視点

「経営者」になると、「収入」を増やすことが重要な目標の一つになりますので、二つのベクトルの角度は小さくなりがちです。

既に「経営者」で成功され、多くの収入を得ている先生が、さらに事業の拡大を目指している部分を垣間見ると、どこまでいっても「満足感」という面積を広げようとするものだ、と感じました。

医師がアルバイトによって得られるもの

「医師としてのアルバイト」で得られるものは「お金」であり、「やりがい」も「収入」であるのが実情です (図1)。

このため、「アルバイト」のみの生活で得られる満足感を考えた場合、2つのベクトルの角度は小さくなるため、ある一定以上からは、この面積を広げることに苦労すると思います。

「収入」を増やすため、勤務日を増やし、さらにその後は、1コマあたりの報酬をあげるため経営者と交渉するなど努力していくと思いますが、前述の通り、本手法で「満足感」の面積を広げるには限界があります。

このため、自分の医者人生において、「アルバイト」はあくまで本業や目標があってこその「アルバイト」、すなわち「収入の補填」であり、本業において「やりがい」を追求することが重要なのだと考えました。

この「やりがい」というのは、人それぞれに異なりますが、それが前述の様な「感謝」や「人からの評価」など「お金」以外の側面であることが多いため、収入は低くても常勤医師として勤務される先生や大学で研究される先生が多いのだと考えました。

人間としての満足感

前項にて、人は「満足感」という面積を広げようと努力すると話しました。

一方、前述の2つのベクトルは、あくまで「仕事」の部分であり、人が生きていくためには、もう一つ他に、「仕事以外での充実性」というベクトルが存在していると思います (図2)。

これら三点を結んだ体積は、「人としての満足感」であり、最終的に人はこの体積を増やそうと努力します。

「仕事以外での充実性」は、家族、趣味、など人それぞれ異なります。アルバイトでの生計確立という生活は、仕事の側面のみから見ると「満足感」をあげるのに苦労しますが、子育てや趣味に没頭することで、「人としての満足感」はあがります。

逆に、自分の時間の多くを仕事に費やし、家族をはじめとする他の側面を軽く考える、すなわち、「仕事における満足感」を増やすことのみに集中すると、「仕事以外での充実性」というベクトルが忘れられ、「人としての満足感」の体積は広がりにくくなります。

医師として勤務する中で、仕事に没頭されてきた地位ある年配の患者さんから、「家族や友人との時間をもっと大事にすればよかった」という話を聞き、「仕事以外での充実性」というベクトルも重要なのだと確信しました。

人と比較するという習性

定量化が難しい「やりがい」や「仕事以外の充実さ」

人は、他人と比較し、安心したり不安になったり、ということを繰り返します。

この理由を考えた際に、人は、「人としての満足感」を可視化し定量することが難しいため、無意識的に他人と比較して「満足感」の面積を確認する習性があるのではないかと考えました。

前述の3つのベクトルの内、「収入」は定量化されていますが、「やりがい」や「仕事以外での充実性」は曖昧です (図2)。

仕事における「やりがい」という指標。臨床面では、「技術の高さ」や「知識量」、「自身を信頼する患者数」、研究面では、「論文数」や「受賞」といったことである程度、可視化され、「収入」同様に比較されます。

「仕事以外での充実性」は可視化しにくいですが、SNSで自身の情報を発信し、「リア充」という言葉が出回る社会であることを考えると、少なからず人は他人と比較して存在を確認しているような気がします。

しかし、「やりがい」や「仕事以外での充実性」に関するベクトルの背景は個々で異なるため、他人と比較することで優越感や劣等感を感じても、本質ではありません。

仮に、他人と同じベクトル(収入やインパクトファクター、事業規模)を比較し、一時的な優越感を得ても、そのベクトルについては自分より上の他人が必ず存在するため、最終的には劣等感を感じることになります。

では「人は人と比較する習性があること」を理解した上で大事なことなことは何でしょうか?

比較すること

「比較しないこと」が重要であるのは言うまでもありませんが、比較するのであれば「比較対象を過去の自分におくこと」「同じベクトルでなく、様々なベクトルで比較すること」だと思います。

現在の環境でどのように「人としての満足感」を増やすのか。伸ばすべきは「収入」か「やりがい」か、もしくは他の側面であるのか。

現在の環境では、自分の満足感という面積を増やすことに限界を感じた時は、転職を考える時期になるのかもしれません。

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この記事を書いた人

安藤 克利のアバター 安藤 克利 代表取締役

2006年に東京慈恵会医科大学を卒業後、東京厚生年金病院(現JCHO東京新宿メディカルセンター)、亀田総合病院で初期・後期研修。研修中に米国医師臨床研修資格(ECFMG)を取得。取得の経験をもとに「やさしい英語で外来診療」を執筆。
2011年より順天堂大学呼吸器内科。基礎・臨床研究に携わり、2017年までに筆頭著者として英語論文20編、日本語論文17編を発表。
2017年に中外製薬株式会社に入社。MDとして製薬企業で薬の開発に携わった経験をもとに「そうだったのか!臨床試験のしくみと実務」を執筆。
2018年に目黒ケイホームクリニックを開業し、現在、呼吸器内科医・在宅医として臨床・研究を行っている。

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