医師としてのキャリアパスについて〜研修先・何科を選ぶか、医師でない道を進むか

もくじ

医師のキャリアパス (学生~初期研修医)

初期~後期研修医時代は、自身の時間の多くを知識や経験の習得に捧げます。医師としてのknowledgeやskillが増えていくと、喜びや充実感を感じる機会が多くなり、満足度も上昇します。

時間の経過とともに成長速度は鈍化する

一方、時間の経過と共に、成長速度は鈍化し、「経験を積む・学ぶ」といった思考から「仕事をこなす」という意識へと変化し、「臨床」=「業務」となっていきます。

そのような時期になると、医学以外の側面 (経営をはじめとする経済的側面、人事をはじめとする政治的側面) が見え始め、キャリアや自身の将来像について真剣に考え始めます。

今後のキャリア・将来像を考えるとき

考える際には「情報」を収集しますが、その方法は、先輩・大学の同級生を参考にする、キャリアに関連する本を読む、インターネット、等が主流です。

最も簡便な手法であるネット上には、転職をすすめる広告・サイトにあふれており、たくさんの「情報」が存在しています。

インターネットには人材紹介会社の情報であふれている

一方、これらの「情報」は、紹介派遣会社の広告戦略として活用されている部分も多く、「バイアス」が大きくなります。ネット上には、転職をすすめない広告・サイトが見当たらない理由は、「転職したい」という要望がなければ、紹介派遣業に関連する職種の需要が生まれないためです。

よって、自身の転職にあたっては、これらの「バイアス」を少なくし、論理的な意思決定を行っていく必要があります。

本項では、医師のキャリアパスについて医学生時代から振り返り、「バイアス」を少なくする方法について考えていきたいと思います。

医学部時代の記憶〜将来像をどう考えていたか?

医学部に在籍中、将来像について何か考えていたでしょうか?

自身の記憶は、大学でのポリクリ、試験勉強、それ以外では部活、旅行、アルバイト、等で、そう遠くない将来「医者になるんだ」といった事以外に、具体的な将来像を考えたことがありませんでした。

医学部に入ったからには将来は医師になるのが大多数

もちろん「何科になる (外科 or 内科)」、「初期研修先 (大学 or 大学以外)」などの決定事項はありましたが、それらは全て「医者」という枠組の中のものでした。

もっとも、医学部に入学時点で「医者になる」ことを決意していたわけですから、他の選択肢については私を含め大多数の方はあまり考えないと思います。

海外に目を向けると医師の道に進まないキャリアもある

一方で、海外に目を向けると状況は少し違いました。私が米国でUSMLEstep2CSの対策を受けた際、お世話になった先生は、医師免許を持っていながら初期研修のステージに進まなかったという経歴でした。また、医師免許を保有しながら、金融関係で働く方の存在も知りました。

当時は、驚きを隠せませんでしたが、海外にはそのような方が以外と多く存在することを知りました。日本では多くの場合、医学部進学を高校時代に決めるのに対し、米国では通常の大学を卒業後、医学部に進学します。このため、多くの学生は多彩な選択肢の中から、「医者になる」という選択肢を選んで入学しているわけです。

日本では、医学部時代に医者になる意外の選択肢に触れることが少ない

これらの背景から、日本で医学部に入学された方のほとんどが「医者になる」のは、医学部時代に「医者になる」以外の選択肢に触れる機会が少ないため、と考察できます。実際、高校の同級生が就職活動に際し、将来像を考え自分に向き合っている時、私は部活とアルバイトに精を出していました。

「米国に比べて日本の学生は~」と教育や学生の意識を問題視する会話を聞く機会もありましたが、そんな事を言われても、「医者になる」ことを高校時代に決めなければいけないシステムなのですから、どうしようもありません。

学生時代は医学に集中し、医学の枠組みの中で海外に目を向けるのがよい

また、日本と米国では医療システムが異なるため、意識が異なるのは当然であり、どちらが正しいというものではないと思います。

米国の様な超資本主義社会では貪欲さがないと医師としての職がなくなりますので、当然意識は高くなります。しかし、そのような貪欲さが生み出す負の側面を知ると、日本の教育システムもpositiveにとらえられるのではないかと思います。

私自身は、選択肢がないというのは、ある意味幸せなことであり、他の選択肢がある環境下よりも医学に集中できるのではないかと思っています。他の選択肢を知ることは個々のactivityによりますが、ある一定以上の「情報」は幸福感につながりません。

よって学生時代には、医学に集中して頂き、activityの高い方は、医学以外の選択肢を見つけるといった方向ではなく、医学の枠組みの中で海外に目を向けて頂くのがよいのではないかと思います。

医学生時代に「医者になる」以外の選択肢に悩んだら

「一眼国」という落語が示す通り、日本は豊かな文化・経済を築いてきたと同時に、独特の同調圧力が存在し、少数派を許容できない・異質なものとして排除する傾向の強い社会であることが理解できます。

多数派でいる分にはリスクは少なく過ごしやすいですが、個性の尊重が困難な社会であるがゆえ、個人の目標を追求するにはそれ相応の覚悟が必要です。

医学部卒業後に企業に就職する是非

最近、医学部卒業後、すぐに企業に就職する、起業する、等「医者になる」以外の選択肢がフォーカスされ、賛否が話題にあがりました。

どちらかというと批判的な意見の方が多い印象であった理由は、少数派の許容が困難な社会背景もあると思われます。

一方、こんな選択肢の少ない医学生時代に、そのような日本の特性を知りながら、自分の目標を目指すことを決断した方々の行動力や能力は計り知れません (多くは、選択肢を見出しても行動まで至らないため)。

後述するように、私自身は、日本社会の医療体系が今後大きく変化していくものと予想しており、これらと同時に医学部卒業後の選択肢も増えていくのではないかと予想します。

医学部に在籍しており、将来の選択肢に悩む2つの理由

現時点で医学部に在籍中の方が「医者になる」以外の選択肢に悩む理由は、

  • 医者になりたくない、向いていないと思う (例:生死や責任などに触れ、自身には困難と思う)
  • 他にやりたいこと、目標がある (例:運動、起業)

に大別されます。

どのような決断をするかは個々によって異なりますが、どちらの場合にも「医者になる選択肢を消さない」という選択肢も考えておく必要があると思います (私見です)。

医学部の学生は、「医者になる」という通常ありえない選択肢を保有している他、「医者」という職種の中にも様々な選択肢が存在するためです。

後者において、様々な複合的な要素を考慮し、「医者になる」という選択肢を選んでしまうと、目標達成が困難と考えられる場合には、はじめてその選択肢を消すことになります。

医学部時代の決定事項―研修先と何科になるか

学生時代の最重要決定事項というと、

  • 初期研修先の設定 (大学に残るか、市中病院で研修するか)
  • 進路の設定 (外科系か内科系か、等)、です。

臨床留学、研究医を目指す方は、その時期や前述した「医者になる」か否か、等の決定も必要となります。

学生時代における決断の重要性は「初期研修先の設定」が大きい

学生時代における決断の重要性は、①>②になると思います。

というのも実際に進路を決定するのは、初期研修終了時であるためです。私は市中病院の内科系コースで初期研修を開始しましたが、内科コースの同期6人中、内科に進学したのは3人だけです。

「進路を設定」を優先し短期で経験を積んでも、長期で見ればその差は小さい

確かに医学部在籍中から外科医になることを決め、初期研修先もそのような特性に合う病院を設定し、実際研修中にバリバリ執刀していた方は、後期研修開始時に他の同期と比べskillやknowledgeが高くなります。

その差は、当の本人達には大きいものに見え、医学部の学生さんはそのような部分に注目しがちです。しかし、長い医者人生で見ると、その差はちっぽけなものだと思います (私見です)。

ようはセンスや意識の問題であり、内科から転科、もしくは3年目から初めて執刀したとしても、2-3年もすればそのskillは補填され、差は小さくなっていきます (センスがなければ差は広がるだけです)。

進路が決定されている方は、技術と知見を伸ばせる環境を選択すべき

初期研修先の選択について言えることとして、学生時代に進路が決定されている方は、そのskillやknowledgeが最も伸ばせる環境を選択される方がよい、ということです。

しかし、他の方が初期研修先を選ぶにあたり、大学にするか、市中病院にするかは、個々の特性によって慎重に判断する必要があると思います。

人間は、activityが高く自分で貪欲に知識、経験を獲得していく方もいれば、そのような貪欲さが苦手な方まで様々です。

初期研修先を市中病院に設定した場合

市中病院では「臨床」のウエイトが極めて大きく、病院によってその質は異なります。医師の人数も少なく、自身のオーベンが必ず研究に精通しているか、教育的であるかは時の運です。

よって、activityの高い研修医であれば、自分から手技を見つけにいく、論文を読む、上司とdiscussionする、等が可能ですが、受け身であると何もせず事務作業で終わってしまう、という状態にもなりえます。

すなわち、市中病院での研修は、activityの高さにより自身の研修充実性が規定され、最低限が保証されない、というリスクを考慮しておく必要があります。

初期研修先を大学に残ることを選択した場合

一方、大学は層が厚く、ほぼ必ずといっていい程、各科に教育担当の先生がいます。経験も豊富であることから、受け身の研修医でも最低限が保証されます。

しかし、方針は教授回診で決定される、他科へのコンサルトの壁が厚い、人が多いため手技が少ない、等activityの高さによって解決できない事項が多く存在します。

古くから有名な臨床研修病院というのは、市中病院での長所を生かしたまま、大学と同様の教育体制も兼ね備えている、という背景があり、人気がでるわけです。

自身の進路が決定しておらず、初期研修先を迷っている方は、このような自身の特性を考えた上で決定するのもよいと思います。

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この記事を書いた人

安藤 克利のアバター 安藤 克利 代表取締役

2006年に東京慈恵会医科大学を卒業後、東京厚生年金病院(現JCHO東京新宿メディカルセンター)、亀田総合病院で初期・後期研修。研修中に米国医師臨床研修資格(ECFMG)を取得。取得の経験をもとに「やさしい英語で外来診療」を執筆。
2011年より順天堂大学呼吸器内科。基礎・臨床研究に携わり、2017年までに筆頭著者として英語論文20編、日本語論文17編を発表。
2017年に中外製薬株式会社に入社。MDとして製薬企業で薬の開発に携わった経験をもとに「そうだったのか!臨床試験のしくみと実務」を執筆。
2018年に目黒ケイホームクリニックを開業し、現在、呼吸器内科医・在宅医として臨床・研究を行っている。

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