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「私の〇〇盗ったでしょ?」物取られ妄想に寄り添うために:背景を理解し、優しい気持ちで向き合う
認知症の症状の一つである「物取られ妄想」は、家族や介護者にとって大きな試練となることがあります。
大切な人が突然「財布を盗まれた」「通帳がなくなった」と訴え、時には自分を疑うような言葉を投げかけてくると、驚きや悲しみ、時には怒りを感じることもあるでしょう。
しかし、物取られ妄想の背景には、本人の不安や孤独、そして「申し訳ない」という気持ちが隠れていることがあります。
このコラムでは、物取られ妄想の原因や特徴を解説し、家族や介護者が優しい気持ちで向き合うためのヒントをお伝えします。
物取られ妄想とは?
物取られ妄想とは、認知症の周辺症状(BPSD:行動・心理症状)の一つで、「大切なものを誰かに盗まれた」など強く思い込む症状です。
特にアルツハイマー型認知症の方に多く見られます。対象となる物は、財布や通帳、鍵、薬など、本人にとって重要なものが多いのが特徴です。
この妄想の対象となるのは、しばしば身近な家族や介護者です。
特に、長時間一緒にいる家族や信頼関係のある人が疑われることが多く、「どうして自分が疑われるのか」とショックを受ける方も少なくありません。
しかし、これは本人が意図的に嘘をついているわけではなく、認知症による脳の変化や心理的な要因が絡んでいます。
物取られ妄想が起こる背景
物取られ妄想の背景には、認知症による記憶障害や心理的な不安が深く関係しています。
これを理解することで、本人の気持ちに寄り添いやすくなります。
1. 記憶障害による混乱
認知症の中核症状である記憶障害が、物取られ妄想の主な原因です。
本人は物をどこに置いたかを忘れてしまい、その事実を思い出せないため、「ない=盗まれた」と結びつけてしまいます。
例えば、財布を自分で別の場所にしまったことを忘れ、「誰かが持っていった」と思い込んでしまうことがあります。
2. 不安感や孤独感
認知症の進行に伴い、自分の能力が低下していることへの不安や、周囲から取り残されているという孤独感が強まります。
このような心理的ストレスが妄想を引き起こす要因となります。特に、家族や介護者が忙しくしている姿を見ると、「自分は迷惑をかけている」と感じ、さらに不安が増幅されることがあります。
周囲の人が自分の知らない話などをしていたり、自分のことを話していることも不安に感じたり、人それぞれ様々な要因があります。
3. 「申し訳ない」という気持ち
自分の能力が低下していることを自覚する場面では他にも「家族に迷惑をかけている」という罪悪感や負い目を抱くことがあります。この「申し訳ない」という気持ちが、妄想を強化してしまうこともあります。
例えば「自分が迷惑をかけているから、家族が自分の物を隠しているのではないか」といった思い込みが生じることがあります。
負い目に感じることが増えることで、ストレスが溜まり近しい人に辛くあたってしまうこともあります。
4. 喪失体験の影響
高齢になると、親しい人との別れや健康の衰え、財産の減少など、さまざまな「喪失体験」を重ねることが多くなります。
これらの体験が、物を失うことへの過剰な恐れを生み出し、妄想につながることがあります。
家族や介護者ができる優しい対応方法
物取られ妄想に直面したとき、家族や介護者がどのように対応するかで、本人の安心感や症状の進行に大きな影響を与えます。
以下に、具体的な対応方法を紹介します。
1. 否定しない
本人が「盗まれた」と訴えたときに、「そんなことはない」「あなたが忘れただけ」と否定すると、本人の不安や怒りを増幅させてしまいます。
まずは、本人の気持ちに寄り添い、「それは大変だったね」「どこに行ったんだろうね」と共感する姿勢を示しましょう。
「は?」「え?」などが一言目に出ないよう工夫できれば、結果的に争う時間がなくなる、もしくは短くなります。お互いに苦しむことが極力ないことが望ましいです。
一言目が重要です。
2. 一緒に探す
本人がなくしたと思っている物を一緒に探すことで、安心感を与えることができます。
探す過程で、本人が「自分でしまった場所」を思い出すこともあります。また、探す行為そのものが本人の気持ちを落ち着かせる効果もあります。
3. 別の話題に切り替える
物取られ妄想がエスカレートしそうな場合は、別の話題に切り替えるのも有効です。
話の中で好きな食べ物や趣味の話題を振ることで、気持ちをそらすことが出来ることもあります。
4. 環境を整える
物取られ妄想を防ぐために、本人が大切にしている物を決まった場所に保管し、本人にもその場所を伝えておくと良いでしょう。
また、貴重品は本人の目に触れない場所に保管することで、妄想の発生を減らすことができます。
5. 専門家に相談する
物取られ妄想が頻繁に起こり、対応に困った場合は専門家に相談することを検討しましょう。
一人で抱え込まずに相談し適切なアドバイスや支援を受けることも大切です。
私は過去に祖母と暮らしており、実際に疑われた際「そうなの?自分の荷物や周りを探してみるね」「もしあったら本当に申し訳ない」「なかったら困るもんね」「自分の身の回りにはないなー」「でも絶対に見つける」など言いながら自分自身がダメだから祖母を困らせてしまうというようなシチュエーションにすることが多かったです。
最終的には「大丈夫、見つからなくても気にしないで」と返って心配してもらうような時もありました。
うまくいかないことも・・・もちろんありました。
妄想の背景にある気持ちを理解する
物取られ妄想の背景には、本人が抱える不安や孤独、そして「申し訳ない」という気持ちが隠れています。
これらの感情は、本人が「自分は家族にとって負担になっている」と感じているサインでもあります。
そのため、妄想そのものを否定するのではなく、本人の気持ちに寄り添い、安心感を感じてもらうことが大切です。
家族や介護者が心に留めておきたいこと
物取られ妄想は、本人が意図的に嘘をついているわけではなく、認知症による脳の変化や心理的な要因が原因です。
そのため、家族や介護者が「自分が疑われた」と個人的に受け止める必要はありません。
また、介護は一人で抱え込むものではありません。周囲のサポートを受けながら、本人と家族が穏やかに過ごせる時間を増やしていくことが大切です。
まとめ
物取られ妄想は、認知症の方が抱える不安や孤独、そして「申し訳ない」という気持ちが形となって現れる症状です。この背景を理解し、優しい気持ちで向き合うことで、本人の不安を和らげ、家族や介護者自身の負担も軽減することができます。
大切なのは、本人の気持ちに寄り添い、否定せずに受け止めること。そして、必要に応じて専門家の力を借りながら、無理をせずに介護を続けていくことです。
認知症介護は、本人と家族が共に穏やかな時間を過ごすための工夫と支え合いの積み重ねです。