糖尿病をお持ちの方への「栄養剤の選び方」について【管理栄養士が解説】

今回のコラムでは「糖尿病」に注目して考えてみましょう。

糖尿病の方は、食事のカロリー制限が必要ですが、一方で食事量が減ると栄養不足(低栄養)になることもあります。では、そのような場合でも 糖質を多く含む栄養剤を選んでもよいのでしょうか?

今回は、糖尿病の方が適切な栄養剤を選ぶポイントについて解説します。

なお、前回までのコラムで

について解説してきました。

特に、③と④では、年齢とともに食事の量が減った場合に、不足しがちな五大栄養素(特にカロリーやたんぱく質)をどのように補えばよいかについて、栄養補助食品や栄養剤(医薬品)を中心に解説しました。

また、栄養剤には 市販の栄養補助食品 と 医薬品としての栄養剤(経腸栄養剤) の2種類があることについても紹介しました。

もくじ

糖尿病と食事の関係

糖尿病には大きく 2型糖尿病と1型糖尿病の2種類があります。

  • 2型糖尿病:「すい臓」という臓器から分泌されるインスリン(血糖値を下げるホルモン)というホルモンの量が減ったり、うまく働かなくなったりすることで発症します。
  • 1型糖尿病:インスリンを作る細胞が壊れてしまい、体内でインスリンを分泌できなくなる病気です。

そもそもインスリンは何をしているの?

インスリンの役割は、食事で摂取した糖(ブドウ糖)を、エネルギーとして細胞に取り込むのを助けることです。

食事をすると、体内で炭水化物がブドウ糖に分解され、血液中の糖の量(血糖値)が上がります。

このとき、すい臓からインスリンが分泌され、血液中の糖を細胞に送り込み、エネルギーとして使えるようにすることで、血糖値を下げています。

しかし、糖尿病になると インスリンの量が不足したり、インスリンがうまく働かなくなる ため、糖が細胞に取り込まれず、血液中にたまってしまう(高血糖)のです。

糖尿病の食事療法の重要性

この高血糖状態が続くと、動脈硬化や腎機能の低下などのリスクが高くなるため、糖尿病の方は血糖値を適正に保つための食事療法が大切です。

2型糖尿病の方は、糖質の量を適切に管理し、血糖値のコントロールを行います。

1型糖尿病の方は、外部からインスリンを補給(インスリン注射)しながら、インスリンの調整をしやすい食事を心がけます。

三大栄養素(炭水化物、たんぱく質、脂質)のバランス

糖尿病の食事では、三大栄養素(炭水化物・たんぱく質・脂質)をバランスよく摂ることが大切です。

糖尿病の食事での栄養バランスのポイント

炭水化物

総エネルギーの 40~60% を目安に摂取

食物繊維を多く含む食品を選ぶと、血糖値の上昇をゆるやかにできる

たんぱく質

総エネルギーの 20%以下 に抑える

脂質

残りのエネルギーを脂質で補う(約20~30%)

脂質が25%を超える場合は、脂肪の種類に注意!

飽和脂肪酸(肉・乳製品)を減らし、不飽和脂肪酸(植物油・魚の油)を増やす

具体的なエネルギー配分の例(1日2,000 kcalの場合)

1日の摂取エネルギーの目標が2,000 kcal の場合、以下のようなバランスになります。

栄養素カロリーグラム換算(1gあたりのカロリー)
炭水化物(60%)1,200kcal300g(1g=4kcal)
タンパク質(20%)400kcal100g(1g=4kcal)
脂質(20%)400kcal約44g(1g=9kcal)

炭水化物を40%にするとどうなる?

この場合、脂質の割合が増えるため、飽和脂肪酸(肉や乳製品)を減らし、不飽和脂肪酸(植物油・魚の油)を多く摂ることが大切 です。

3) 糖尿病の方に適した栄養補助食品(栄養剤)

糖尿病の方が低栄養状態になった場合も、これまでのコラムで紹介したように 栄養補助食品の活用を検討します。

しかし、ここで注意が必要なのはカロリー補給に特化した商品を選んでしまうと、糖質の摂取量も増え、血糖コントロールが悪化する可能性があるという点です。

そのため、栄養補助食品を選ぶ際は、糖質を抑えながら、脂質でエネルギーを補えるものを選ぶことが重要です。

脂質の役割とは?

高エネルギー源

脂質は 1gあたり9kcal あり、炭水化物(1gあたり4kcal)やたんぱく質(1gあたり4kcal)よりも効率よくカロリーを摂取 できます。

必須脂肪酸の供給

体に必要な オメガ3脂肪酸(EPA・DHA) や オメガ6脂肪酸を含み、細胞膜やホルモンの材料になります。

脂溶性ビタミンの吸収を助ける

ビタミンA・D・E・Kは 脂質と一緒に摂取することで吸収率が向上します。

糖尿病では脂質を活用する!

糖尿病の方は、炭水化物(糖質)を摂りすぎると血糖値が急上昇してしまうため、糖質の割合を抑えて脂質からエネルギーを補う方法が有効です。

例えば、糖尿病向けの栄養剤 には以下の特徴があります。

  • 脂質の割合を増やし、エネルギーを補う(例:グルセルナEXでは脂質50%以上)
  • 良質な脂質(不飽和脂肪酸)を多く含む
  • 血糖値が急上昇しにくい糖質(低GIの糖質)を使用

脂質の種類を適切に選ぶことが大切で、特に不飽和脂肪酸(魚や植物油由来)を活用すると健康的にエネルギー補給が可能です。

栄養補助食品の選択にあたってのまとめ

ポイント

  • 糖質を抑えたものを選ぶ
  • 脂質の割合が高く、カロリーを脂質で補えるものを選ぶ
  • 脂質の「質」にもこだわる(EPA・DHAなどの不飽和脂肪酸を含むもの)

具体的な製品

以下のようなものがあります。

エンジョイクリミールFiber+

糖質を抑え、脂質の割合を増やし、不飽和脂肪酸(EPA・DHA)を配合 した栄養補助食品

アイソカルグルコパル

吸収がゆるやかな糖質(パラチノースやタピオカデキストリン)を使用 し、血糖値の急上昇を防ぐ設計

糖尿病の方向けの経腸栄養剤 ※保険適用なし

糖尿病の方で、血糖コントロールが必要な場合に使用される経腸栄養剤には、脂質の割合を高め、糖質の割合を抑えたものがあります。

例えば、グルセルナEX は、脂質の割合を50.7%に増やし、糖質を少なく調整 した経腸栄養剤です。

このような製品は、咀嚼(かむこと)や嚥下(飲み込むこと)が難しくなり、食事から十分な栄養を摂れない方の血糖管理 に適しています。経口摂取(口から飲む) または 経管栄養(チューブでの栄養補給) に対応しています。

保険適用外のため、入院中は病院の食事として提供 されますが、退院後は自己負担 となります。

5)まとめ

糖尿病の方に適した栄養剤の選び方は、患者さんの背景や併存疾患(他の持病の有無)によって異なります。

通常の栄養剤(標準組成のもの)では血糖コントロールが難しい場合、糖尿病向けの栄養剤を活用することで、より適切な管理が可能になります。

そのため、それぞれの患者さんの栄養状態や血糖値を定期的にモニタリングしながら、最適な栄養剤を選択することが重要です。

日頃の介護のお悩み、LINEで気軽に専門家に相談してみませんか?

よるりメディカルでは、医師・看護師・ケアマネジャー等の専門家にLINEで相談できるサービスを提供しています。

まずは気軽に「LINEで友だち追加」してみてくださいね!

\無料で友だち追加/

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

2012年、管理栄養士免許取得。
病院、透析クリニック、等で経験を積み、2021年在宅訪問管理栄養士の資格を取得。現在、フリーランスに転身し、在宅での訪問栄養食事指導の他、企業やクリニックで生活習慣病を含めた慢性疾患に対する栄養相談・指導も行っている。

もくじ