「処方される栄養剤もあるの?―医薬品としての栄養剤―」について管理栄養士が解説!

前回のコラム(「栄養補助食品の種類・効果的な活用法」を管理栄養士が解説)では市販の栄養補助食品について解説しましたが、医師が処方する医薬品としての栄養剤も存在します。

本コラムでは、医師の処方する栄養剤について解説します。

もくじ

医薬品としての栄養剤とは?―市販の栄養補助食品との違いー

医薬品として医師が処方する栄養剤は、「経腸栄養剤(けいちょうえいようざい)」と呼ばれ、腸から効率的に吸収されるように調整されています。

市販の栄養補助食品は、「食品」であるのに対して、「経腸栄養剤」は「医薬品」に分類されます。

このため、他の内服薬や注射剤と同様に、治験(臨床研究)を通じて、その有効性や安全性が確認されています。

どんな人が対象になるの?

「経腸栄養剤」は、下記のような患者さんに処方されます。

  • 胃や腸の病気で、通常の食事では必要な栄養を吸収できない方(例:短腸症候群、クローン病)
  • 病気や障害、手術の影響で、飲み込み、消化・吸収の機能が低下している方
  • 病気や手術の後の回復期で体力の維持や治癒を促進するため、特別な栄養管理が必要な方
  • 慢性的な病気のために十分なカロリーや栄養素が摂取できず、既に低栄養状態にある方

市販の栄養補助食品に対して、経腸栄養剤は健康保険が適用され、自己負担額が軽減されます。

一方、費用が軽減されるという目的で、経腸栄養剤を処方された場合には、保険適用にはなりませんので注意が必要です。

経腸栄養剤の投与経路について

経腸栄養剤は、口から内服する「経口法」と、栄養チューブ等から投与される「経管栄養法」に分類されます。

経鼻法

経瘻孔法

「経管栄養」には、鼻からカテーテルを胃や十二指腸、空腸まで挿入し、そのカテーテルから栄養剤を投与する「経鼻法」と、お腹や首から直接、胃や腸にカテーテルを挿入し(「瘻孔(ろうこう)」といいます)、その瘻孔から栄養剤を投与する「経瘻孔法」があります(例:胃瘻)。

通常、短期間の栄養管理には経鼻法が、長期(4週間以上を目安)にわたると予想される場合は経瘻孔法が選択されます。

経腸栄養剤はどのように選択されるの?

経腸栄養剤は、その成分や消化吸収のしやすさによって、「半消化態栄養剤」、「消化態栄養剤」、「成分栄養剤」の3つに分類されます。

簡単にいうと、

  • 半消化態栄養剤は、「ほぼ普通の食事に近いけど液体状」
  • 消化態栄養剤は、「少し消化が必要」
  • 成分栄養剤は、「消化する手間ゼロ」

というイメージです。

どの経腸栄養剤を処方するかは、患者さんの消化・吸収能を参考に選択されます。

1. 半消化態栄養剤

特徴: たんぱく質や脂肪が分解されていない状態で含まれており、通常の食事に近い形の栄養剤。

イメージ: 柔らかく刻んだ普通の食事が、液体になったもの。

対象: 胃腸がある程度正常に機能しているけれど、経腸栄養が必要な人向けに処方されます。

例:

〇エンシュア・H(375kcal/250ml)

〇ラコールNF配合経腸用液(200kcal/200ml)

エンシュア・Hより脂質が少なく、炭水化物の含有量が高め。

〇イノラス配合経腸用液(300kcal/187.5ml)

他剤に比べて、1mlあたりのエネルギー量、栄養素が高濃度に含まれています(1.6kcal/ml)。日本人の食事摂取基準(2020年版)に規定された1日に必要なビタミン・微量元素の推奨量または目安量の約1/3を充足できます。

2. 消化態栄養剤

特徴: たんぱく質や脂肪が部分的に分解された状態で含まれており、消化がしやすいように作られている。

イメージ: 半分消化済みの料理のようなもの(柔らかく調理された食事のような感じ)。

対象: 消化能力が弱っているけれど、ある程度の消化が可能な人に処方されます。

3. 成分栄養剤

特徴:必要な栄養素(アミノ酸、糖類、脂肪酸、ビタミン、ミネラルなど)が、すでに最も細かい形(消化された形)になっている栄養剤

イメージ:胃や腸で消化した後の栄養成分だけが入ったスムージーのようなもの。

対象:消化能力がほとんどない人や、胃や腸が大きく損傷している人に処方されます。

病気や治療のため、絶食の期間が長かった場合や消化吸収能が低下している場合には、消化があまり必要ない成分栄養剤が選択され、その後、消化態栄養剤→半消化態栄養剤の順に処方されます。

まとめ

今回は、医師が処方する経腸栄養剤について、市販の栄養剤(食品)との違いを中心に解説しました。

私達、管理栄養士や医師の先生方は、病気や病態によって、市販の栄養剤や経腸栄養剤を使い分けています。次回は、病態に応じた選択方法を中心に解説しています。

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この記事を書いた人

2012年、管理栄養士免許取得。
病院、透析クリニック、等で経験を積み、2021年在宅訪問管理栄養士の資格を取得。現在、フリーランスに転身し、在宅での訪問栄養食事指導の他、企業やクリニックで生活習慣病を含めた慢性疾患に対する栄養相談・指導も行っている。

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