\会員限定で介護の悩みを無料相談/
「栄養補助食品の種類・効果的な活用法」を管理栄養士が解説
食事量が減ってくると問題になるのが、栄養不足(低栄養)。低栄養状態が続くと、筋肉量が減り、体力が低下し、食事するのがより大変に。。という悪循環になってしまいます。
栄養補助食品は、栄養を補うことで、低栄養の進行を予防することを目的に使用しますが、様々な種類があり、どれを選択すれば良いのか迷われるかと思います。
今回は、栄養補助食品についての基礎知識と効果的な活用法を解説します。
高齢者の食事量の目安
健康を維持するためには、適切なエネルギー摂取量とバランスの取れた食事が不可欠です。
厚生労働省が定めた「日本人の食事摂取基準(2020年版)」によると、必要なカロリーの量は、活動量により差はあるものの、75歳以上の男性は1800~2100 cal、女性は1400~1660 calとされています。
75歳男性の食事例
仮に75歳の男性で自立した生活を送っている方であれば1日に2100kcalが必要となり、朝、昼、夕と分けて摂取していくには1食あたり700kcalの食事を摂っていく必要があります。
これを食事に置き換えると、
- 主食:ごはん大盛(200g)
- 主菜:豚肉70g(豚の生姜焼きで4枚ほど)
- 副菜:小鉢で1~2品
- 汁物:1品
のボリュームとなります。
加齢とともに食べたいけど食べられない状況に
しかし、「少ない食事で効率良く栄養を摂るには?おすすめの食材や美味しい食べ方を管理栄養士が解説!」という記事で解説した通り、加齢と共に食欲や飲み込む力が低下すると、必要な栄養を十分に摂取できない状況となります。
エネルギー不足による低栄養状態を防ぐためにも、食べ方の工夫に加え、必要に応じて栄養補助食品の活用が必要です。
65~74歳の身体活動レベル
身体活動レベル | Ⅰ(低い) | Ⅱ(ふつう) | Ⅲ(高い) | |
---|---|---|---|---|
座っていることがほとんど | 座っていることが多いが、立ち作業や通勤、買い物、軽い運動もする | 移動や立ち仕事が多い、活発な運動習慣がある | ||
男性 | エネルギー(kcal) | 2,050 | 2,400 | 2,750 |
たんぱく質(g) | 77~103 | 90~120 | 103~138 | |
女性 | エネルギー(kcal) | 1,550 | 1,850 | 2,100 |
たんぱく質(g) | 58~78 | 69~93 | 79~105 |
75歳以上の身体活動レベル
身体活動レベル | Ⅰ(低い) | Ⅱ(ふつう) | |
---|---|---|---|
自宅にいてほとんど外出しない | 自立している | ||
男性 | エネルギー(kcal) | 1,800 | 2,100 |
たんぱく質(g) | 68~90 | 79~105 | |
女性 | エネルギー(kcal) | 1,400 | 1,650 |
たんぱく質(g) | 53~70 | 62~83 |
高齢者の食事で気を付けておきたい栄養素は?
栄養素は大きく分けて、たんぱく質、脂質、炭水化物、ビタミン、ミネラルの5種類に分類されます。
これらは、5大栄養素といわれ、いずれも欠かすことはできませんが、高齢者の食事で特に意識しておきたい栄養素が、たんぱく質です。
高齢者も若い世代と変わらずたんぱく質が重要
というのも、1日に必要なたんぱく質の量は、高齢者でも若い世代と変わらず、75歳の男性では60gと設定されています。
食事量が減り、たんぱく質が不足すると、筋肉が衰え、生活に影響が出るようになってしまいます。
食事の工夫や栄養補助食品を活用し、たんぱく質を不足しないようにする必要があります。
食が進まない場合は栄養補助食品で補う
その他、嚥下機能が低下すると、噛みにくさ、飲み込みにくさから繊維のある食品の摂取量が不足します。
野菜自体にはエネルギーやたんぱく質の含有量はすくないものの、生命維持にかかせないビタミン・ミネラルが豊富に入っています。
食事からビタミン・ミネラルが補えない場合にも栄養補助食品で補いましょう。
栄養補助食品の種類と選び方
食事だけで必要なカロリーや栄養素を摂取するのが難しい場合、栄養補助食品(サプリメントや栄養ドリンク)を利用しましょう。
栄養補助食品を利用しながら、少しずつ食事摂取量が増やし、その後、栄養補助食品を徐々に減らし、最終的には食事のみで必要な栄養素が全て摂取できるようにするのが理想的です。
以下では、栄養補助食品の種類と、それぞれの効果的な活用方法について詳しく説明します。
エネルギー補給食品
加齢とともに食事量が少なくなり、エネルギー不足となっている際に効率よくエネルギーを補給できます。
栄養ドリンク、高エネルギーバー、流動食タイプの食品があり、飲み込む力が低下している方にはゼリーや流動食タイプが適しています。
味も様々な選択要素ですので、いろいろ試してみて、食べやすい・好きな味を見つけてみてください。
商品例①
アイソカルゼリーハイカロリーゼリー(150kcal/1個66g)
少量で効率良くエネルギーが補えます。ゼリータイプなので嚥下機能が低下している方も飲み込みやすいよう、濃さと柔らかさが均一になっています。
商品例②
アイソカル100(200kcal/100ml)
少量で高エネルギー。コーンポタージュ味など味の種類が豊富であり、甘いのが苦手な方にもおすすめです。
特定の病気をお持ちの方に対するエネルギー補給食品
脂質でお腹を下しやすい方
脂質は1 gあたり9 kcalと3大栄養素(炭水化物、たんぱく質、脂質)の中では最も多くのエネルギーを産生し重要なエネルギー源です(炭水化物・たんぱく質:1 gあたり4 kcal)。
そのため、栄養補助食品には効率良くエネルギーを補うため、一般的に脂質が多く含まれます。
消化器の病気をお持ちの方(慢性膵炎や過敏性腸症候群など)は体内で分解された脂肪酸が腸を刺激するため、脂質の摂取はなるべく控える必要があります。
しかし、脂質を控えることでエネルギー不足となり低栄養状態に繋がる為、エネルギーは補いつつ脂質を控える必要があります。
商品例
すっきりクリミール(200kcal/125ml、脂質0g)
エネルギーは補えるが、脂質は0g。
腎機能が低下している方
たんぱく質が体内で代謝されると、尿素やクレアチニン、尿酸といった老廃物が生じます。これらの物質は通常、腎臓で濾過されて尿として排出されますが、腎臓が悪くなると、これらの老廃物を十分に排出できず、血液中に蓄積してしまいます。
また、タンパク質を多く摂取すると、それを代謝する過程で腎臓が余分な働きを強いられます。特に慢性腎臓病(CKD)の場合、腎臓の濾過機能が低下しているため、タンパク質の摂取を減らすことで腎臓への負荷を和らげる必要があります。
このため、腎臓の悪い方では、食事からのたんぱく質摂取量を控える必要があります。
しかしエネルギー不足になると、身体の筋肉などを分解してエネルギーを算出しようとし、その際にでた老廃物が腎臓の負担になります。エネルギーは補いつつ、たんぱく質量を抑える必要があります。
商品例①
リーナレンLP(200kcal/125ml、たんぱく質2.0g)
エネルギーは補えるが、低たんぱく質。低カリウム、低リン組成で慢性腎臓病や透析中の方に選択されます。
不足しがちなたんぱく質を補う栄養補助食品
前述の通り、1日に必要なたんぱく質の量は、高齢者と若い世代で変わりません。このため食事量が減ると、たんぱく質が不足しがちになり、筋肉量が低下してしまいます。
たんぱく質を補充することで、筋力維持だけでなく、免疫機能の向上や傷の治癒促進にも有用とされています。
たんぱく質を補う食品には、プロテインパウダー、高たんぱくゼリーや飲料があります。
筋力低下(サルコペニア)の予防に効果的で、リハビリ中の栄養補給にも適しており、栄養補助食品の効果を最大限に引き出すには、摂取タイミングが重要で、プロテインは運動後に摂取することで吸収が促進されます。
商品例
リハタイムゼリー(100kcal/100ml、たんぱく質10g)
1個にたんぱく質を10g含み、 BCAA2500mg、ビタミンD20μgを含有。リハビリテーション後の筋肉量アップの補助に期待できます。
ビタミンやミネラルの不足を補う栄養補助食品
食事量が低下すると、5大栄養素のビタミンやミネラルも不足しがちとなります。ビタミンやミネラルには様々な種類があり、不足すると様々な影響が生じます。
ビタミン、ミネラルが不足していると感じたら、栄養補助食品による補充を検討します。
栄養素 | 成分 | 不足の影響 |
---|---|---|
ミネラル | カルシウム | 骨粗しょう症や骨折のリスク増加 筋肉のけいれんや弱さ 長期的には心血管系への影響 |
マグネシウム(Mg) | 筋肉のけいれん、しびれ 不整脈や高血圧 エネルギー代謝の低下 | |
鉄(Fe) | 鉄欠乏性貧血(疲労感、息切れ、集中力の低下) 免疫力低下 | |
カリウム(K) | 筋力低下や疲労感 高血圧や心血管系疾患のリスク増加 | |
亜鉛(Zn) | 味覚障害、食欲低下 傷の治りが遅くなる 免疫力低下、感染症リスク増加 | |
水溶性ビタミン | ビタミンB群(B1, B6, B12など) | 神経系の異常(しびれ、手足の感覚異常) エネルギー代謝の低下、疲労感 B12不足は貧血や認知機能の低下につながる |
ビタミンC | 皮膚や粘膜の脆弱化 免疫力低下、感染症リスク増加 傷の治りが遅くなる | |
脂溶性ビタミン | ビタミンD | 骨軟化症や骨粗しょう症 筋力低下による転倒リスク増加 免疫機能低下 |
ビタミンA | 視力低下(特に夜盲症) 皮膚や粘膜のバリア機能低下 | |
ビタミンE | 抗酸化機能の低下 神経系のダメージ |
床ずれや創傷のある方
床ずれや創傷がある場合、治すために、身体が必要とする栄養素の量は増加します。
たんぱく質、エネルギーはもちろんですが、ビタミン類や亜鉛などのミネラル類も、創傷の治癒過程で重要となります。
※厚生省老人保健福祉局老人保健課「褥瘡の予防・治療ガイドライン」より
商品例
ブイ・クレスCP10(80kcal/125ml、たんぱく質12g)
12種類のビタミンと、鉄や亜鉛などのミネラル、コラーゲンペプチド10,000mg(10g)を配合。「褥瘡を有する方の食事療法として使用できる食品です。」との表示許可を取得した食品です。
消化吸収を助ける食品
胃腸の負担を軽減し、消化吸収を助ける目的で使用される食品に、酵素サプリメント、乳酸菌飲料、オリゴ糖があります。便秘の改善や腸内環境を整える効果が期待できます。
過剰摂取のリスク
栄養補助食品は便利な一方で、栄養補助食品に過度に依存してしまうと、バランスの取れた食事を摂取する機会が減り、栄養の不均衡が生じる可能性があります。
また脂溶性ビタミンやミネラルの過剰摂取は、主疾患の治療に影響を与える場合もあります。
普段の食事からバランス良く栄養を摂ることが理想ですが、食事量が低下しているときは、栄養補助食品を活用し土台になる栄養確保が大切です。主治医や管理栄養士に相談しましょう。